コラム
経営一族から株式の買取り打診が来た場合には、迷わず売るべし!
歴史がある会社の場合、代替わりの都度株式が創業家内で分散し、結果的に複数の親族にて会社の株式を保有しているケースはよく見られます。
仮に皆さまが同族会社の株式を持つ親族株主であり、現経営一族(例えば兄弟や従兄弟など)から株式の買取りの打診を受けた場合、売るべきでしょうか、もしくは売却を断り、保有を続けるべきでしょうか。
そのようなときに、どのように考えるのが正解なのか、私の経験も踏まえて整理させて頂きます。
ちなみにタイトルにもある通り、私の結論は「迷わず売るべし!」の一択です!
もちろん譲渡価額の妥当性など、交渉する余地はあるかもしれませんが、絶対に売った方が得をします。
本日はその理由を整理していきたいと思います。
【前提としての非上場株式の特異性】
まず前提となるのは、非上場企業株式の特異性です。
株式と聞くと上場株式が最も身近だと思いますが、上場企業株式と比べ、以下の2点が大きく異なります。
①売りたい時に売れない
上場企業に関しては市場が存在しますが、非上場企業は市場が存在しないため、基本的には株主の売りたいタイミングで売れません。
言い換えると、上場企業株式の売買に関しては売り手主導なのに比べ、非上場企業に関しては買い手が存在しない限りは絶対に株式を売ることが出来ず、買い手主導であると言えます。
親族株主が「保有している株式を買い取って欲しい。」と考えた場合、まずは買い手を自力で探す必要があり、仮に買い手を見つけられたとしても、金額交渉・譲渡承認手続き等、非常に労力が掛かります。
②売れないのに財産とみなされ多額の税金が課せられる
父母から引き継いだ株式なので、とりあえず保有しておくという選択肢も当然ありますが、
非常に厄介な点が、市場が無く自分の意志だけでは売れないにも関わらず、相続のタイミングでは相続財産としてしっかり評価され、評価額に応じた相続税が課せられるという点です。
当然相続税を支払うため株式を売ろうと考えても、上記①の問題が発生しますので、
非上場企業の株式に関しては、「現金を生み出さず、かつ税金だけ課せられる負の資産(≒負債)」、ドラゴンクエストで言う自分の意志だけでは外せない「呪い装備」になり得えてしまうのです。。。(ドラゴンクエストの下りはただ言ってみたかっただけです。。。苦笑)
ちなみに事業承継の検討の実務の場でも、親族株主から「無料でもよいので株式を引き取って欲しい」と経営一族に相談がなされ、経営一族としても「こちらも引き取るとそこに贈与税や相続税が掛かるため引き取れない。」という返答になり、結果的に持株会に安く譲渡するというケースは多いです。
【なぜ経営者一族は株式の買取りを打診してきたのか】
前段の特異性を踏まえると、経営一族から買取り打診があることは、親族株主からするとまたとない譲渡のチャンスであることが分かります。
ここで売り手として気になる点は、何故経営一族は負の側面も多い株式の買取りを敢えて打診してきたのかということになります。
理由としては、大きく以下の3パターンであることが想定されますが、私の経験上は圧倒的にCのケースが多いです。
A 将来的にM&Aや上場の予定がある
B 経営者一族の持つ議決権比率を高めたい
C 将来後継者が負うリスクを回避したい
Aの場合は株式を集約をする前の状態でも可能ですし(むしろ集約をした後M&Aや上場をした場合には揉めるケースが大半)、Bの場合は今まで特段問題なく経営を行えている場合には、経営一族として議決権比率向上の優先順位を上げていない場合が大半です。
将来M&Aや上場の予定は無い、現状議決権比率でも困っていない。それでも株式の集約に動くのは、株式を巡って将来的にトラブルになる、後継者が株式で苦労するリスクを現経営者の代で排除しておきたいという想いに他なりません。
(親族株主に相続が発生し、多額の税金が発生した場合、当然泣きつく先は経営者一族になり、後継者の代に移っている場合はその対応が大きな負荷になります。)
【売るタイミングは今がよい?また将来のタイミングの方がよい?】
経営一族からの打診の際、「これ以外のタイミングでは購入を考えていません。(今しか買いません。)」という文言が付されるケースが大半です。
当然売る側としては、「今回売らなければ、将来もっと高い金額で買って貰えるのでは?」という考えも浮かぶと思います。
ただ経験上は、「今売らない限り、将来今回より良い条件で買ってもらえる確率はほぼ0%」と言い切れます。
というのも、経営者一族が期限を今回限りとしているのは、売り手に揺さ振りを掛けるためではなく、このタイミングでなければ買い手も買うことが出来ないという事情を抱えているからです。
代表的な事情は以下の2点です。
①相続税評価が抑えれており、集約がしやすいタイミングである。
非上場企業株式の相続税評価額というのは非常に計算式が複雑なのですが、業績と株価が連動するという特徴があります。
例えば親族株主から一株1,000円で買取る場合、一株当たりの相続税評価額が10,000円なのか2,000円なのかで、集約先(経営一族)の贈与税が大きく異なり、贈与税に連動して集約のハードルも大きく上下します。
経営者一族としても、集約する場合にはなるべくコストは抑えたいと考えているため、綿密な計画に基づいて打診をしているケースが大半です。
打診のタイミングを逃し、その後相続税評価が上がってしまうと、経営一族が買い取ること自体が困難となり、売り手にとっては二度と売れないという結果になる可能性が高いです。
②株式買取りのための融資が付くタイミングである。
株式の買取りに関しては、買取金額に加え、贈与税等が発生することも多いため、集約先の経営者一族に関しては莫大な資金を準備する必要があります。
当然自己資金で全てを賄うことは難しく、金融機関から融資を借りて集約資金に充てるケースも多いです。
ただし自己株の集約に関しては融資に対して担保が取りにくいことから、金融機関も貸し渋るケースもあり、こちらも綿密な計画に基づいて金融機関も巻き込み、集約に備えているケースが大半です。
打診のタイミングを逃すと、次のタイミングで融資がつくかどうかも分からず、準備の手間を考えても次の買取り打診のタイミングは想定してないケースがほとんどです。
【まとめ】
いかがでしたでしょうか。
ちなみに譲渡金額の妥当性に関しては売り手としても気になるところだと思いますが、
「今の株式の価値は○○円なので、いくらで売ると得する/損する」という、上場企業株式売買目線で交渉に臨むと、ほぼ交渉は纏まらず、せっかくのチャンスが流れてしまうという非常に勿体ないケースも当然あります。
ちなみに買い手目線での譲渡金額の決め方としては、株式の価値からの逆算で算出するケースはほとんどなく、
「今のタイミングであればいくらまでなら集約資金として出せる。」という資金計画の結果に応じて金額を決めている場合が大半です。
「売れるのであればなるべく高く売りたい。」という気持ちは、売り手としては当然の心情ではありますが、
打診があった時ほど、「買い取ってくれるだけでも非常に有難い話」「買い手も非常に考え貫いた中で話を持ってきてくれている」という、相手目線の考察も重要になると思います。
株式の譲渡を経て、両者がお互い満足・感謝し合えるということが、最も大切なゴールであると考えています。
ご参考まで、今まで私が関与して株式集約を行った案件においては、結論がでるまでの過程の中では紆余曲折ありましたが、最終的には売り手・買い手ともに満足されていたケースが100%です。(逆に言うと、希望が折り合わず、株式譲渡自体を見送ったケースも当然あります。)
ご参考になれば幸いです。