コラム
「税法で認められています。」というセールストークの罠。税務調査における伝家の宝刀。
前回のコラム【株価低減を狙った無理のある組織再編には注意!確実に税務否認されます!】にて、『節税商品のセールストークで「税法上は合法です。」という説明がよくありますが、正直実質的にはあまり意味がない謳い文句になります。』と記載しました。
なぜ税務上は合法にも関わらず、税務調査で税務否認されてしまうのか、
それは「総則6項」と「行為計算否認」という、いわば税務署の伝家の宝刀が存在するからです。
今回は、その2つの伝家の宝刀に関して触れたいと思います。
【総則6項とは】
財産評価基本通達総則6項というのが正式名称になります。
内容としては「この通達の定め(≒税務上合法なやり方)によって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」というものとなります。
タワーマンション節税が分かりやすいのですが、
相続の直前に時価10億円、相続税評価5億円の物件を購入し、相続を迎えた場合、現金を10億円がタワーマンション5億円に置き換わり、単純計算で▲5億円分相続財産の評価額を減らすことができます。
この場合、相続税の財産評価の方法としては5億円で正しいのですが、例えば相続後すぐに当該物件を10億円で売却した場合、
本当にこのタワーマンションを5億円で評価してよいのか、という問題が出てきます。
※現在はタワーマンション節税には税務上の規制が掛かっています。
もしこの方法が税務上認められてしまうのであれば、資産を持っている人は全員、相続直前に時価と相続税評価額が乖離している資産を購入し、低い相続財産評価額で申告納税した後、時価で現金に換えることができてしまいます。
「当該財産の税務上の評価額は5億円かもしれないが、実態を見て10億円で評価して課税します。」という税務否認こそが、総則6項の内容となります。
【行為計算否認とは】
税務調査においてもう一つ抑えておきたいのが、「行為計算否認」となります。
これは、税金の負担を不当に減らす目的で行ったと認められる行為や計算を認めず、当該行為や計算が無かったとして計算した税額を課するという制度で、法人税、所得税、相続税に定めがあります。
前のコラムで紹介した【前澤さん、それは流石にアウトです・・・】の内容が正に当てはまるのですが、
本来の事業上の運営には必要が無い取引(不明な寄付行為やペーパーカンパニーを通す取引など)を行い、税金が減っている場合には、税法上は合法だとしても行為計算否認で否認されることが多いです。
要するに、「節税だけを目的とした取引は認めませんよ。」という内容になります。
総則6項、行為計算否認ともに、経営者・創業者の意志によって内部の処理を自由に行いやすい事業承継関係、同族会社関係でよく指摘される内容ですが、
過去の例ではキーエンス創業者の持株会社に関しても、過去にその評価額を巡って行為計算否認と総則6項の合わせ技で税務否認を受けた事例もありました。
(創業家にて実施している取引が異常過ぎて、流石にこれは否認されてしかるべき、という内容でしたが。。。)
どちらにしても事業承継で重要なことは「引き継ぐ側(後継者)の負担を最小化すること。」ですので、
事業承継後に後継者が伺いしれない領域で税務否認されては本末転倒となります。
事業承継検討というと、「事業承継の対象となる法人の評価額を下げたい。」と、ついついその税金面・節税面に目が行きがちですが、
ポイントは抑えつつも、なにより事業上の判断を第一に、承継計画の判断を行っていくことが肝要です。
事業承継の検討においては、本質的な方針策定や取組みこそが、事業上も、そして税務上も最も重要と言えます。